本記事は、OB座談会「薬学部の研究と卒業キャリア・ダイジェスト版」を文章化したものになります。
氏名(敬称略) | 卒業学科 | 現所属 | 役職 |
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小野田 淳人 | 生命創薬科学科卒業 | 山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部 | 教員 |
田中 怜 | 薬学科卒業 | 静岡県立静岡がんセンター | 薬剤主任 |
秋田 智后 | 薬学科卒業 | 東京理科大学薬学部 | 教員 |
關 静香 | 生命創薬科学科卒業 | 製薬企業 | なし |
稲田 将大 | 生命創薬科学科卒業 | 医薬品医療機器総合機構(PMDA) | 医薬品安全対策 |
青木 伸(進行) | — | 東京理科大学 | 教授 |
※参加者の皆様の所属と役職は、2021年の収録時のものです。
(青木)
今日はみなさんありがとうございます。東京大学薬学部の卒業生の皆様に、東京理科大学の魅力を話してもらおうという企画です。今回は、特に東京理科大学の研究と卒業後のキャリアについて、皆さんにお話をしていただきたいと思います。皆さん、本学のOB,OGの皆様です。私は、東京理科大学薬学部の生命創薬科学科におります青木と言います。今日はよろしくお願いいたします。
皆さんの自己紹介を兼ねて、理科大学にいたときの研究内容と現在の所属先と業務、お仕事の内容を簡単にお話ください。
(小野田)
はい、よろしくお願いします。小野田淳人と申します。東京理科大学にいたときは、赤ちゃんの健康を守る研究、どうすれば病気にならないのか。あるいは、病気をもって生まれてしまった場合、どうすれば治療することができるのか、病気を見つけ出して直すことができるのか、という研究を行っていました。
東京理科大学で学部4年生から研究を始めて、修士課程、博士課程と研究を行ったのちに、名古屋大学の医学部で2年間、国から給料をいただきながら特別研究員PDという立場で研究をさせていただき、現在は山陽小野田市立山口東京理科大学という大学で助教を勤めています。
(田中)
静岡がんセンターという病院で、病院薬剤師をやっております田中怜と申します。今は病院で臨床薬剤師をやっておりますが、大学の在籍中は有機化学が専門でした。創薬合成化学研究室という研究室に入っておりまして、抗がん剤のおおもととなる、抗がん活性のある天然物の合成を行っていました。天然からは少量しか得られない化合物をフラスコの中で安価な材料から大量に作り出していく全合成を行っていました。そして、抗がん活性の増強、安定性の向上、医薬品に適した形にする創薬合成化学研究が専門でした。現在は、がん患者の痛みや苦しさ、症状を抑えるために、痛み止めの専門の薬剤師として働いております。
(秋田)
秋田智后と申します。私は6年制課程である薬学部薬学科を卒業したのちに、そのまま理科大の大学院の6年制の上の4年制大学院(薬学科の上に設置されている博士後期課程は4年間)に進学し、そのまま母校の薬学部薬学科のDDS・製剤設計学という研究室の助教として採用されました(現在は生命創薬科学科の嘱託特別講師)。学部時代の研究としては、肺がんと世界の死亡原因の3位といわれているCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する新しい治療法の開発といったテーマで研究を行っていました。現在も同じ研究室で研究を行っており、COPDの新しい治療法の開発に加えて、その新しい治療薬を見つけて作用点である肺まで効率よく送り届けるためのシステムを開発しています。
(関)
薬学部と薬学研究科の修士課程を卒業して、現在は製薬企業に勤めております。理科大在学中の研究テーマは、ATP受容体をターゲットとした新規制がん剤の創製でした。がんの悪性化に寄与するといわれている血管新生におけるATP受容体の関与を明らかにして、ATP受容体を標的とした新規制がん剤の創製を目指していました。現在は製薬企業に就職し、安全性情報管理職という仕事に従事しております。この仕事は医薬品等の安全性情報を収集・評価して、それに対する安全対策を立案し、医療従事者や患者さんに情報提供を行う仕事です。
(稲田)
稲田将大といいます。私は、4年制の方でして、4年間プラス修士2年間の後、医薬品医療機器総合機構(PMDA)という厚生労働省の傘下にある組織で、医薬品の審査や安全対策業務などをやっており、医薬品の安全対策業務と新薬審査業務を併任しています。安全対策業務は、企業の方からの添付文書などの改訂相談を受けたり、日々、医薬品医療機器総合機構へ報告されてくる副作用報告を評価したりすることで、安全対策の要否を検討しています。
理科大在学中に、みなさんが熱中したことはなんでしょうか。
(小野田)
一番最初にあげるのであれば、やっぱり研究かなというふうに私は答えさせてもらいます。研究というのは、人類が知らない未知であることを既知に変える、知っているものに変える。あるいは、今まで人類ができなかったこと、不可能なことを可能に変えるということで、それをどうすればできるのか、どうすれば他人にそれを伝えられるのか、ということを考えて実証するっていうことは、やはり非常に難しくもあり、やりがいを感じて、面白かったことでもあると感じます。
(秋田)
はい、私はですね、三年生までは、大学生になったらやりたいなあと思っていたアルバイト活動ですとか、アルバイトは塾の講師をしており、サークルでバトミントンに入ったり、あとは、15年間ずっと続けていた習い事である書道を打ち込んでやったりということで、大学生活をそういう面でエンジョイしていました。4年生になって研究室に配属されてからは、研究が楽しくなったので、博士課程まで研究一本で打ち込んできたという感じですね。
理科大を卒業してよかったと感じたのはどんなところでしょうか。
(小野田)
特に研究を始めてからというのが大きいんですけれども、そこで一生尊敬できるような先生、師に出会えたということが一番良かったことかなと思っていますね。特に、師と一緒に行う研究活動を通じて、研究のみならず、社会でいろいろな仕事をしたり活動していく上で、非常に重要な力や技能というものを、いろいろ指導していただき、身につけることができたというのが、理科大出身で良かったかなと。もちろんそういった研究室に配属された後の師以外にも、いろいろな先生方から様々な人生観であったりだとか、科学的な知識や考え方であったりとか、そういったことを教えてもらえたというのが、非常にいい、すばらしい先生方に囲まれて恵まれたというのが、理科大出身でよかったかなというふうに思っています。
(田中)
せっかく、4年間で基礎薬学、研究にものめり込んだので、失礼かもしれませんが、薬をつめるだけの薬剤師になってはいけないという思いがありまして、6年制の第一期で言われた「基礎と臨床の融和、架け橋となるべき薬剤師になれ」という先生方のお言葉があったので、ぜひ、研究の最高位である博士号を取ってみたいなあと思いまして、臨床の方で博士号を取ることになりました。
(関)
私はですね、大学や大学院の研究活動を通じて、社会人として業務にかかすことができないPDCAサイクルという、プラン・デゥー・チェック・アクトという、何か計画を立てて、実行して、反省して、またその改善を行動に移すというこの好循環なサイクルの基本を、この研究活動を通して学ぶことができ、自分で考える力を身につけることができたと考えています。
(青木)
あの実はね、今全国で薬学部の4年制の出身者って全国で1000人いるかいないかくらいかなんですよ。ご存知のように理科大の薬学部の生命創薬科学科は100人いますので、薬学部出身者に限りますと、計算上は10%が理科大生なんですね。だから皆さんの会社や組織で、10人に1人、あるいは20人に1人が理科大生であっても全然不思議ではないんです。
(関)
やはりですね、薬学部出身ということですと、疾患や病態に対する知識だったりとか、あと薬物の名称やどういう機序で作用するかとか、そういったところを細かく勉強してきている方がほとんどなので、そういう意味での会社内でのアドバンテージというのはあるかなと思います。
研究成果を国内学会や国際学会で発表された経験について教えてください。
(田中)
研究発表において、自分で苦労して研究をして得た初めての研究成果、これを学会で発表するっていうことは、非常にクリエイティブで楽しいことだと思います。ただ、同じ発表でも発表の見せ方、発表を聞く側の人たちの環境によっても評価がまるで異なるので、講義や筆記試験とか大学の試験では得られない、研究者として大切なことを学んだと思います。
(関)
はい、私も在学中にですね、国内学会での口頭発表や国際学会でのポスター発表を経験して、日本語と英語で自分自身の研究を自らの言葉でしっかりと説明できるような経験をできた事っていうのが、自分の自信につながったかなと思います。今でも会社の中や社外に対して業務に関する発表をしたり、海外のグループ会社や提携会社の方々と英語で電話会議などもかなり頻繁に行っておりますので、その経験と自信というのが現在の業務に活かせているかなと思います。
(田中)
ぼくは今、薬剤師として10年目なんですけど、年1報ぐらいは自分で書いて、約10報くらいは論文を書かせていただいております。他の先生のお手伝いをして共著としていただいていたのは、それも約10報くらいなので、合計で20報くらいは論文を書いております。薬剤師の場合、薬の比較をして、どちらがより効果が高いか、どちらがより安全性が高いか、そういった世界で共通する内容については、英語で論文を書きます。一方、薬剤による事故とか、薬剤師の教育、薬事法など法律にかかわるような日本特有の仕組みに関しましては、海外に発信するよりも日本に集中して読んでいただくために日本語の論文を書くこともあります。
日本あるいは世界に発信を行うことによって、日本中を変えていく、あるいは世界中を変えていくというのが、研究・学会発表、論文投稿の一番すばらしい点なのかなと思っています。研究者だけでなく、現場の薬剤師もしっかりそういった交流の場をもつことが大事だと思います。
理科大の魅力を教えてください。
(小野田)
やっぱり、一番にあげるとしたら理科大自体も掲げていますけど実力主義かなと、中でいろいろと経験してそう感じましたね。その名に恥じないというか、やはり主張しているだけあるなあという印象を受けました。それだけの意識を持って指導してくれる先生方がたくさん揃っているなあという印象ですね。私自身高校時代、ここまでたいした学生じゃなかったんですけれども、理科大で本気で取り組んだおかげで、大学院を出る頃には、博士課程の中でもトップクラスの賞だと言われている育志賞という賞を受賞させていただきましたし、それもやはり、理科大で先生方に鍛えていただけたから、またあとは、仲間同士、学生同士で切磋琢磨して競い合って、共に学んできたからというのが大きいのかなというふうに思っています。
(田中)
そうですね、当薬学部ではですね、4年制の学生も6年制の学生も、基礎・臨床の両方の知識を十分得られるよう濃密なカリキュラムが用意されています。当然課題の提出などの自己研鑽は必須になるのですけれど、卒業後の進路として、私のような病院の薬局の薬剤師だけでなく、大学の教員、企業での研究者、行政など、幅広い道が開けているんじゃないかなあと思います。また、僕のようにいったん就職したあとも、もう一回学び直したい、深い学問を学びたいといった時に、大学院の制度が非常にととのっているので、門を叩きやすいというのも、魅力の一つかと思います。
(秋田)
研究室配属時に、6年制の学生も4年制学生もいっしょに研究できる環境が整っていますので、私としては、学生時代に4年制の学科の学生さんたちといっしょに研究出来たという点では、非常に研究へのモチベーションが高まったかなといった点で非常によかったかなと思っています。
理科大には、6年制の薬学科と4年制の生命創薬科学科がありますが、お互いにどんな違いがあるとおもいますか。
(関)
個人的な印象ですが、大学3年生頃まではあまり大きく変わるイメージというのはもっていなくって、やはり、大学4年生以降で、研究に取り組むのか、病院薬局実習に取り組むのかで、大きな違いが出てくるかなっていう印象ですね。その後の進路としても、研究職を考えているのか、もしくは薬剤師免許を活かした仕事をしたいかで、判断が変わることになるかなとは思います。
薬剤師免許を取得できない生命創薬科学科の卒業生として感じていることはありますか。
(小野田)
私はまったく後悔ないですね。一番はやっぱり(6年制学生が)4年生、5年生、6年生が講義であったり実務実習に割いている時間を、研究のために使うことができたってことは、まったく後悔していないというよりは、私としてはそちらの方を望んでいたので、まったくそっちの方を選んで、後悔とかはいっさいなかったです。
(関)
実際私が製薬企業に就職してから、免許がなくて困ったりとか、不安に思ったりということは、いまのところ一度もないです。
(稲田)
そうですね、私の職場でも、薬剤師免許の有無で仕事の幅が変わるということはないので、仕事上は特に困ることはないですね。私みたいに修士卒ですとか、先輩方だと博士卒もいますし、6年制卒もいらっしゃいますけど、それぞれ各分野で、薬剤師の免許のあるなしで、どうのこうのということは特に聞いたことはないですね。
みなさんの職場での男女比や、キャリアを重ねたり家庭を持つことなどとのバランスはどうでしょうか。
(関)
はい、だいたい、およそ半々か、もしかしたら今、女性の方が多いぐらいの私は部署におりまして、もちろん産休だったり育休だったり、女性の方も男性の方も当たり前のように育児休暇を使われる方も多いですし、最終的に復職率としてもほぼほぼ100%に近いくらいの方が戻られているというような状況です。
(稲田)
そうですね、私の職場、安全対策の部署で80人とか90人くらいいらっしゃいますけど、6割女性、男性が4割くらいで、女性の方がちょっと多いですかね。もちろん出産とかされて、育休産休とかとられる方も一定数おられますし、すぐというわけではないですけど、例えば1年後、2年後とかいうところで実際に仕事に戻ってきて、バリバリ仕事をされているような方も複数いらっしゃいますし、そういう意味では女性でもきちんと仕事をして活躍する機会がある職場なのかなというふうには思いますね。
(田中)
そうですね、当院の薬剤部はだいたい男女比が1:1くらいですね。おそらく大病院の方が1:1に近くて、小さい規模の病院になっていくにつれて女性比率は高まってくるかと思います。女性の制度が整っているかに関しては、当院は静岡県の公務員扱いになっておりますので、産休育休は公務員の制度上とれるということで、多くの方がとっています。男性も、育休をとっている方もいらっしゃいます。薬剤師の活動において、基本的に数年育休、産休をとったとしてもすぐ復帰できることは多いんですけど、研究とか、薬剤師の上位資格である専門薬剤師・認定薬剤師をとっていきたいという方に関しましては、継続して何年といった制約が課せられる時もあるので、育休産休を終えた後、30代後半・40代になってからとりはじめるといったキャリアプランを考える方が多いんじゃないかと思います。
高校生や保護者の方々へメッセージをお願いします。
(小野田)
やっぱり、高校生やその親御さんとなりますと、どうしても目に行ってしまいがちなのが偏差値ということになるとは思うのですけれども、大学で一番大事なのは、自分にあっているかどうかというところになります。自分に合っている、学びたいことがきちっと学べる大学・学部であることをまず大前提として、そのうえで、その大学で一番成長できるかどうか、入学時と卒業時の差に是非注目してほしいかなっていうふうに思います。私自身、非常に理科大が自分にマッチしていて非常に成長できたということを自覚していますので、是非その入学時の他の人たちの偏差値以上に、自分自身がどうか、自分自身がこの大学で頑張りたいと思えるか、学びたいと思えるかどうかっていうことを軸に、是非選ぶときに考えていただきたいなあと思います。
(田中)
6年制に話を絞りますが、単に6年かけて薬剤師免許を取得するというだけではなくてですね、それ以上の薬学的知識、技術を習得できると思います。実際の医療現場において薬剤師が何を求められているかということですと、医師や看護師のまねごとやお手伝いではなく、医療チームの中の化学者としての役割が求められているかと思います。コミュニケーション能力は当然大切ですけれど、6年間の中で化学、物理、生物をしっかり習得して医師や看護師にそういった知識を提供できるように、自信と誇りを持って薬剤師になってほしいかなと思っております。
(秋田)
病院実習や薬局実習以外にも理科大は卒業研究にも非常に力を入れていますので、学生生活自体がとても忙しくなるとは思うんですけれども、その分、非常に充実した学生生活6年間になると思いますので、私としては大学でみなさんにお会いできるのを非常に楽しみにしています。
(関)
はい、理科大にはですね、やっぱり思いっきり学ぶ環境があるかなと思っています。また、同じような夢や高い志を持った仲間っていうのが周りにたくさんいますので、お互いに刺激を受けながら、充実した学生生活を送ることができると思います。私自身は理科大に入学して、きちんと卒業できて、今、心からよかったなあと思っています。
(稲田)
やっぱり理科大の良さというところが、その自主性を育てるところですとか、問題を発見して問題を解決するようなそういった力を鍛えられるというところは、やっぱり、実際に仕事場でも思うところです。例えば、他の私立薬科系大学と比較して、やっぱりそういった力を大学の中できちんと教育されているっていうところは、やっぱり、他の大学にはそうそうないのかなと思うところでして、やっぱり自信の成長を夢見て、理科大薬学部の門を叩いてくれるような後輩をお待ちしたいと思います。
(青木)
今日は、みなさんお忙しいところをありがとうございました。理科大の魅力を話していただいてありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。